宮部みゆきの「火車」より面白いミステリーってあるの?

宮部みゆきの「火車」を読んだ。面白さと完成度に鳥肌がたった。

火車 (新潮文庫)
火車 (新潮文庫)
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宮部 みゆき
新潮社
売り上げランキング: 850

何故この小説で宮部みゆき直木賞がとれなかったのだろうか。僕が読んだミステリーの中では間違いなくトップクラスの面白さだと思う。女性が失踪したというだけの状況からすこしずつ明らかになってくる事実、また新たな謎が生まれていく。小説を読み進めていくうちに読者は「こうゆうふうになるんだろうな」とか推測しながら読まされるのだが、その推測はことごとく良い意味で裏切られる。

この三週間ほどの間にやってきたことは、カードの家を組み立てるようなことだったのかもしれない。風のひと吹きで、跡形もなく崩れ去ってしまう。

この一文に「火車」の面白さが集約されている。読者が読まされてきた物語はカードの家が崩れるかのごとく消え失せる。


迷宮に似ている。自分が信じて進んできた道が突如行き止まりになるのだ。「これまで自分の進んできた道は間違っていたのか?ありえないだろう」そんな気持ちになる裏切られ方を幾度もさせられる。そして裏切られるたびに物語は一転二転する。読者を物語の急速な変化についていかせるために随所に伏線がはりめぐらせられていて、一つ一つのエピソードが物語を一つの方向に収束させるために考え尽くして配置されている。とてつもない完成度だ。


一枚の絵を完成させようとパズルのピースを組み立てていく。しかし絵は完成しない。代わりに足りない一枚のピースが浮かび上がるのだ。読者がいくらパズルの絵を完成させようと思っていても、宮部みゆきはパズルの足りないピースを読者に見せてくる。そして「火車」という題名の意味に読者は気づく。


火車」は間違いなくミステリー界の最高傑作だ。