適当な性格のせいで生命の危機(その2)

適当な性格のせいで生命の危機(その1) - Cheshire Life


自転車を盗られ、財布を無くし、全財産が家に残っていた少しばかりの小銭のみという状況で、どうにもこうにもできなくなった。親に連絡をするしかないかとも思ったが、親の仕送りが振り込まれる口座のカードは落とした財布に入ったままだったので、親に連絡しても何の解決にもならないのと、自転車に続いて振り込んだ金まで落としてしまった負い目で電話を出来ずに居た。午前中に自転車の盗難届を出しに行き、午後に財布の紛失届けを出しにいった。ものすごく情けなかった。


そんなどん底の気分だった僕に電話が入る。親からだった。「あんた財布無くしたんじゃないの?」という第一声だった。「なんか京都駅から電話かかってきたんだけど、あんた何ぼーっとしてんの!」免許証の本籍から連絡先を突き止めたらしい。僕は心底安堵し、見つかった!と感嘆の声を上げた。すぐさまJR京都駅に電話すると、ちゃんと保護されていて、中身のは全て無事らしい。本当に素晴らしい人に拾われたものだ。


翌日に、行きの運賃のみしかない小銭で京都駅まで行く。小さな紛失物管理所で財布を受け取ることが出来た。自転車を盗られた事実は残ったままなのだが、僕は運が良いなどとこの時点では思っており、鼻歌まじりで帰路についた。結局、自転車も10000円程度の最安の物を購入し、なんとか生活感を取り戻す。


それから一週間後には、もう自転車を盗られたことや財布を落としたことなど忘れていた。それよりも週末に入ってくる初バイト代で何を買おうかなどと考えていた。学園祭があったこともあり、また普段と違う忙しさや気分の浮つきが僕に襲いかかった。学園祭の打ち上げの後に先輩のうちで夜遅くまでゲームなどをしていて、深夜に帰宅した。アパートに入ろうとしてポケットの鍵を探すが、ない。おかしいと思いつつ、バッグの中を探すがやはりない。頭に血が回っていくのを感じ、その後に鼓動が速くなるのを感じる。


バッグの中を徹底的に探してもないので先輩の家で落としたのだろうと思った。しかしその考えはなんとなくぼんやりとしていて、頭の中では鍵を無くしたことをなんとか否定する為に必死で理由を探していることを感じていた。もう深夜である。先輩に電話して確認しようにも先輩の連絡先を知らない。先輩の家に戻った頃には先輩はもう寝付いているだろうと思い、早いところなんとかしなければという焦りがつのる。どうしようかと迷っていると、先輩の連絡先を知っているもう一人の先輩にtwitterで連絡をとることを思いついた。しかしそれも賭けであって、先ほど解散してきたくしたばかりであろう人にtwitterですぐさま連絡がつくとは考えにくかった。


寒い中、先輩宅に自転車を走らせていると、幸いにもすぐさまtwitterのダイレクトメールで先輩の電話番号が届く。信号で止まる度にかけてみるがなかなか出ない。連絡がつかないまま先輩の家に到着した。解散して1時間はたっていた。寝ていたら申し訳ないなと思いつつも部屋にコールをかける。出ない。何度かけても出ない。自転車を必死で走らせて汗だくになったところに夜風が寒い。どうしようもないのでどこか暖かいところに行こうと自転車を走らせると、電話がかかってきた。先輩は風呂に入っていたとのことで、先輩宅に戻る。


部屋を探してみるが鍵はなかった。完全にどこかに落としたようだった。学園祭の最中か、どこかの道ばたにか、とにかく一度落とした鍵は見つかる当ても無かった。藁にもすがる思いで、その日に寄ったラーメン屋やスーパーの駐輪場を携帯のライト片手に探してみた。当然見つからなかった。そして学園祭での疲れと寒さでとにかくどこかで眠りたかった。


夜中に自転車を走らせていると夜の恐怖に始めて気づく。夜に自転車を走らせる行為に、帰る家が無いことが絶望感としてのしかかってきた。マクドナルドにいこうと思った。そこなら暖かいし、机に突っ伏して寝られるかもしれない。何よりも人が居るので絶望感が和らぎそうだった。そのとき、一応駄目元でずっと寝泊まりしていた友人の元にメールを送ってみようと思った。
「起きてる?」
寒い中、手をこすりあわせながら少し自転車を止めて待ってみた。しばらくして返事が届く。
「まっちょまっちょ!」
「今から行く」


その友人の家は僕らのたまり場であって、常に誰かが遊んでいる。その日も何人かで修学旅行ごっこのようなことをしていて、わざと電気を消して暗くした部屋でひそひそとくだらない話をしていた。僕はジャケットのまま友人の布団がわりのコタツの中に潜り込み、そのまま眠りについた。


大学の紛失物管理室に行っても鍵は見つからず、結局鍵が僕の元に帰ってくることはなかった。学生アパートの管理室に行ってみると、シリンダーを交換しなければならないということで15000円かかるらしい。一週間合鍵を貸してくれたのだが、週末の初バイト代は全て吹っ飛ぶことになりそうだ。そして生きていく為にまた親を頼らなければならなくなった。




全て僕のいいかげんな性格が招いたことで情けなくてしょうがない。一人暮らしを始めて自分の情けなさと親のありがたみが本当に身にしみた。僕は友人に恵まれているようで、今回の件では多くの友人に助けてもらって感謝している。チャットのログを読んでみると先輩方も僕の心配をしてくれていたようで本当にありがたいことだ。当たり前なのだけど、僕のような適当な奴は一人で生きていけない。そこは絶対に認識しておかなければならない。今後はもう少ししっかりと、そして生きていく為に人との繋がりは全力で大切にしていこうと思った。