動物から人間の経済活動の根源を学ぶ

先日の廣瀬幸弘教授「動物行動学から学ぶ経済学」の授業の肝心となる経済学の部分のまとめ。3つの実験を通して、動物としての人間の経済活動の本質を暴いて行こうという授業。

実験1:成功体験の強烈さを犬から学ぶ

犬を使った簡単な実験をする。まず、壁に向かってV字型で空間を作るように柵を用意する。このときに柵の両端は壁につけずに隙間を空けておく。そして、ボールをV字型の柵の中にいれて犬に外側からとって来させる。すると、犬はしばらくは柵の外側をうろついて、どうやってとればいいのかを考えているが、やがて柵の左側の隙間を見つけ出してボールをとって、そのまま右側の隙間から出て戻ってくる。この実験を数回繰り返して、犬に左側の隙間から入りボールをとれば良いことを覚えさせる。


そしてここからが面白い。ここで犬に目隠しをして左側の隙間を塞ぐ、右側の隙間はそのままである。すると犬はまず左側の隙間にめがけて歩き出し、そこで隙間が塞がれていることを見つける。そして犬はどうしたかというと、他の入り口を探そうとはせずに、その塞がれた隙間から無理矢理中に入ろうとする。右側の隙間を見つけるのにはかなりの時間がかかる。そして、右側の隙間を確認させた後にまた同じ実験をすると、犬はまだ左側の隙間を探そうとする。数回やってもしばらくは塞がった左側の隙間からはいろうとするのだ。


人間も動物として全く同じ行動をする。一度の成功体験は決して忘れない。一度成功したのだからと、何度失敗しても同じやり方を使ってしまう。スポーツで変な癖がつくのは変な癖のままマグレで活躍してしまった時だと言うし、ギャンブルがなかなかやめられないという人はその典型だろう。経済活動についても、同じことが言える。人間は一度味をしめるとどんなに採算がとれそうにない危険な道でも、痛手を負うまで進み続ける。

実験2:動物は目先の利益に食いつくことをヒヨコから学ぶ

次はヒヨコを使って実験をする。ヒヨコが赤のビーズをつつくと1秒後に6個のえさが、青のビーズをつつくと3.5秒後に6個のえさが、緑のビーズをつつくと1秒後に1個のえさが出てくる装置の仕組みをヒヨコに覚えさせる。まず、3つのビーズで実験を行うと、ヒヨコは赤のビーズばかりをつつく。次に、赤と青のビーズを使って実験をすると、赤のビーズばかりをつつく。赤と緑のビーズを使って実験をしてもやはり赤のビーズばかりをつつく。


ここまでは誰でも予想できる結果なのだが、1秒後に1個のえさの緑のビーズと3.5秒後に6個のえさの青のビーズではどちらをヒヨコは選ぶだろうか。結果は緑のビーズばかりをヒヨコは選ぶ。時間差でもらえる大きな利益よりも、すぐにもらえる小さな利益の方を動物は好むのだ。この他のさまざまな実験で検証してみても、やはり目先の利益を動物は好む。


この現象は人間の経済活動にも表れる。動物的経営者は目先の利益にばかりに目を奪われて、とんでもない失敗を犯したりする。人間は動物的行動を理性によって抑制できる動物なので、動物は目先の利益に食いつくことをよく理解しておく必要がある。

実験3:透明性が協力を生むことをカケスに学ぶ

青カケスという鳥をつかっての実験だ。透明な箱に2つのボタンがついた装置が2つあり、カケスを2羽その装置にそれぞれ入れる。装置の1のボタンを押すと自分の箱にえさが1つ落ちてきて、2のボタンを押すと相手の箱にえさが3つ落ちてくる。えさは10回のボタン操作の後に得ることができる。これらのことをカケスに理解させる。


この実験をしてみると、カケスは最初は1のボタンばかりを押して自分の箱にえさをためる。しかし、数回くりかえしていくと、お互いが協力しあってお互いの箱の中にえさをためるようになるのだ。


この実験でのポイントは「お互いに見えること」と「えさが積み重なるまでえさを与えるのを遅れさせること」の2つだ。お互いに見えることにより信頼関係が生まれる。積み重ねることにより、その信頼関係を確認できるのだ。動物が信頼関係を築くためには「透明性」と「積み重ね」が必要であることがわかる。もちろん人間も例外ではない。

人間はどうすればいいのか

人間は動物であり、人間である。動物らしく、そして動物的な行動を抑制しながら経済活動をしなければならない。動物は自分自身の利益のために協力し合う。人間が最大限に利益をあげるためには「Communication」「Confidence」「Respect」の3つが必要となる。その3つが「Reciprocity(相互利益)」となり、「Network of Cooperation(人脈)」となって「Happiness」につながる。人間の動物である部分を頭の片隅ででも理解しておくことが重要なのだ。