猫派を黙らせる、犬が飼い主に似てくる科学的理由

ネット上では猫がとてつもない人気を誇っているが、飼ってみると実際犬の方がとてつもなく可愛い。その理由の一つに、きまぐれな猫とは違い、飼っているうちに飼い主に似てくるというものがある。これは決してエセ科学などではなく、科学的な理由がある。大学で廣瀬幸弘教授による「動物行動学から学ぶ経済学」という授業があり、大変面白かったのでメモしておく。人間も動物であるが動物にはまだまだ未知の部分がたくさん残っており、それを解明していけば人間の行動も科学的に定まっていくと考える、という授業で犬の他にも様々な動物について人間の行動と絡めて興味深い話が聞けた。後日暇なときに経済学の部分についてもまとめてみようと思う。


チンパンジーはとてつもなく頭が良い動物だ。チンパンジーが瞬間的に数字の位置を記憶する実験などは誰でも一度は見たことあるかもしれない。色も認識するし、手話で「わたしのりょうしんはにんげんにじゅうでうちころされました」などと人間と会話をもする。その知能の高さゆえ様々な研究機関でチンパンジーについて研究されてきた。しかし、最近ではそのチンパンジーよりも賢いのではないかとされる動物がでてきた。犬である。


犬がチンパンジーよりも賢いとされる実験がハーヴァード大学でなされた。まず、匂いのもれない容器にえさを入れて、それをバケツで見えなくする。もう一つ空のバケツを用意して、犬にどちらかを選ばせる。そのとき、人間がアイコンタクトや一瞬だけ指を指すなどの本当に小さな動作で正解のバケツを示す。すると犬はかなりの確立で正解を選ぶことができるのだ。チンパンジーではこれはできない。


この実験について「犬は人間とずっと触れ合っている分、人間の感情を読み取る能力に優れているだけではないのか?」という一つの疑問が投げられる。それに対して「生まれてから一度も人間に触れさせないでずっと機械によって育てられた犬」で同じ実験をやってみる。やはり同じ結果が得られる。これによって、犬は生来から人間の行動認知能力においてチンパンジーよりも賢い、という結果が得られた。


また、この話を発展させて行くと面白い仮説がわかる。ハーヴァード大学とロシアの共同研究で興味深い実験がなされた。けっして人間には慣れないキツネを産まれてきた赤ちゃんから「人間に少しでも慣れるキツネ」のみを残して交配させる。それを繰り返して行くと、どんなキツネが産まれるのかという実験だった。たったの20年の実験の結果、産まれてきたキツネは限りなく犬に近くなった。毛皮の色もまばらで、鳴き声も「ワンワン」という犬に酷似したものだった。


この実験により、犬が生来から人間に慣れやすい理由が見えてくる。オオカミから人に懐きやすいものが残って行った結果、つまり人間がオオカミを家畜化していった結果、いまの犬が生まれた。性格で選択をしていくと姿形が変わり、認知能力が上がる。そしてさらにこの実験から、霊長類(Great Ape)が人類(Human)に進化する過程に自らの家畜化(Self-domestication)があったのではないか、という推測が見えてくる。


犬とは人間の行動を認知することに特化した動物である。現代人に必要な「空気を読む能力」を備え付けた動物だ。飼っているうちに飼い主の行動をトレースしていき、飼い主が何に喜ぶか何に怒るのかを学習して行く。「うちの犬は家族の一員です」とか言う奴が居るけど、それは限りなく正しいことだと思う。犬は生涯のパートナーとなる可能性を十二分に秘めているのだ。
猫派はそろそろ猛省すべき。


参考
Experimental domestication of foxes yields clues to cognitive evolution